大石 公彦 先生
マウントサイナイ医科大学 臨床遺伝科・小児科

「シトリン欠損症の肝臓病態の解析」

シトリン欠損症は、新生児期の遷延性黄疸や成人発症のII型シトルリン血症と呼ばれる人格の変化、精神症状、意識喪失などを起こす高アンモニア血症などの症状で発症します。ミトコンドリアという細胞内の小器官の内膜にアスパラギン酸とグルタミン酸を交換輸送するために必要なシトリンというタンパクがあります。そのタンパクの働きが損なわれてしまうことでシトリン欠損症が起こるということが現在までに解明されています。シトリンは 肝臓の細胞にとても多く発現されています。そのため、シトリン欠損症の症状が主に肝臓の機能不全によって起こっていることが示唆されます。最近私たちは、健康にみえるシトリン欠損症の患者の多くに、非アルコール性脂肪肝や肝炎の頻度が高いことに着目しました。このような肝臓の障害は発見されることなく、さらに重篤な肝硬変や肝癌に徐々に進行してしまう可能性があると懸念されます。そのため、シトリン欠損症の肝臓障害に対する適切な治療法を見つけることがきわめて重要です。私たちはこれらの課題を克服すべく、シトリン欠損症のモデルマウスを用いた肝臓障害の病態メカニズムの解明、および新しい治療法の確立を目指しています。


研究内容の詳細:

シトリン欠損症は、ミトコンドリア内膜のタンパクであるシトリンをコードするSLC25A13遺伝子の変異により起こる常染色体劣性の疾患です。アスパラギン酸-グルタミン酸輸送体であるシトリンは肝細胞に極めて多く発現されています。シトリン欠損症には、新生児肝内胆汁うっ滞(NICCD, MIM# 605814)、成人期に精神神経症状を伴う反復性高アンモニア血症を呈する成人発症II型シトルリン血症(CTLN2, MIM# 603471)などの多様な発症病態が存在します。シトリン欠損症の症状の病因は肝臓に由来するとされ、CTLN2の発症時に非アルコール性肝炎(NASH)などの非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)が同時に発見される患者も少なくありません。また、CTLN2を発症していない健康にみえる患者であってもNAFLDを有していることもあり、たとえ無症状で血液検査に問題がなくても肝障害が起こっていることが考えられます。NAFLDは肝硬変や肝癌に進行することもあり、シトリン欠損症における肝障害の病態の解明やNAFLDに対する最適な治療法の開発は、大切な研究課題であると考えます。

シトリン欠損症の病態で重要な代謝経路の多くがミトコンドリア内に存在するため、シトリン欠損症ではミトコンドリアの機能異常が生じている可能性が考えられます。また、NAFLDの肝臓にミトコンドリア構造変化が生じることも報告されています。このようなミトコンドリアの機能・構造異常とNAFLDとの既知の関連性を考慮すると、ミトコンドリア機能の分析を中心としたシトリン欠損症の肝障害の分子病態メカニズムの探索研究は、新規の治療法を見つける上で極めて重要で意味深いものになると考えられます。

以上の仮説に基づき、私たちはシトリン欠損症のモデルマウス(Ctrn/mGPD double-KO)を用いた研究での三つの大きな目標を定めました。
1) 肝細胞における、ミトコンドリアの組織および機能の評価。
2) 網羅的メタボローム解析による、新規バイオマーカー、および治療標的分子の探索。
3)シトリン欠損症に由来する脂肪肝に対する新規薬剤の効果の評価。
これらの研究を通して、私たちは病態理解が困難なシトリン欠損症に対する新たな治療法の確立を目指します。

(2019年1月 更新)