シトリン欠損症(CD)の診断は、臨床症状と生化学的分析(表1)に基づいており、SLC25A13遺伝子の遺伝子分析が最も標準的です。。CDが疑われる患者は、確定診断のためにDNA検査を受ける必要があり、遺伝子の遺伝子変異が同定されれば、CDと確定診断できます。下記では、各CD表現型に関連する具体的な診断について詳述しています。

表1. 各表現型によるシトリン欠損症の生化学的所見 [Saheki & Song 2017]

表現型 (年齢) 血液もしくは血漿の アンモニア濃度 (μmol/L) 血漿もしくは血清の シトルリン濃度 (C)# 血漿もしくは血清の アルギニン濃度 (A) (μmol/L) 血漿もしくは血清の スレオニン/セリン比 膵分泌性 トリプシンインヒビター (PSTI)^の血清濃度 (ng/ml)
対照群 18-47* 17-43* 54-130* 1.10 4.6-20*
NICCD (0-6ヶ月) 60 300 205 2.29 30
FTTDCD 正常あるいは わずかに上昇 正常あるいは わずかに上昇 ごく正常 不明 不明
CTLN2 152 418 198 2.32 71

# 新生児スクリーニングで検出することができるシトルリン血症は、NICCDの最も早期に同定可能な生化学的異 [Tamamori et al 2004]。
^ 血清PSTI濃度はNICCDの患者の一部[Tamamori et al 2002]そしてCTLN2発症前の患者 [Tsuboi et al 2001], において高い値を示すため、血清PSTI濃度の測定はCTLN2の発症前診断に有用である可能性がある。
* 範囲

表現型

新生児マススクリーニング(NBS)でシトルリン高値となった場合フローチャート(図1)に従い、アミノ酸分析にてガラクトース、メチオニン、チロシン、フェニルアラニンも高値の場合に診断される場合が多くあります日本先天代謝異常学会2019)。乳児においては肝内胆汁うっ滞、著しい高アンモニア血症を伴わない血漿シトルリン増加(軽・中程度のアンモニア上昇がみられることもある)、尿中オロト酸を伴わないアルギニン正常値又は高値、血漿αフェトプロテインの高値、および/または血中・尿中ガラクトース高値を呈するとNICCDを強く疑います[Häberle and Rubio 2022]。NICCD患者は血清γGPT高値を示すこともあります[Saheki and Song 2017; 日本先天代謝異常学会 2019]。 

新生児マススクリーニングで血中シトルリン増加が検出された患者は、まずアルギニノコハク酸合成酵素(ASS)欠損症との鑑別が必要です。重度のASS欠損症では、血漿アンモニア、グルタミン、尿中オロト酸濃度が有意に高値ですが、NICCDにはみられません。一方ASS欠損症ではアルギニンは低値または正常ですが、NICCDでは高値です[Häberle and Rubio 2022]。 

図1新生児マススクリーニング陽性(シトルリン高値)患者の鑑別判断 日本先天代謝異常学会. 2019. 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン 2019. 診断と治療社. p61.

乳児期にNICCDと診断がつかなかった場合、適応・代償期にシトリン欠損症を疑うのは容易ではありません。しかし炭水化物や糖分を避け、タンパク質や脂肪を多く含む食品を好む特徴的な食事の嗜好によりシトリン欠損症を疑うことはできます。またAST及びALT高値、腹痛、脂肪肝や特に感染症罹患時の低血糖も、この疾患を示唆するきっかけとなります。シトルリン血症、低血糖、脂質異常症、乳酸/ピルビン酸比高値も見られる場合は、FTTDCDが疑われます[Saheki and Song 2017、日本先天代謝異常学会2019、Häberle and Rubio 2022] (図2)。

図2新生児・小児におけるシトリン欠損症診断 フローチャート注)食事の嗜好 (例:糖質の忌避)はシトリン欠損症の診断において重要なことです。これは典型的なCTLN2だけでなく小児と成人の両者における成長遅延、低血糖、膵炎、高トリグリセリド血症などの場合においてもまた重要です[Kobayashi, Saheki et al 2014]。

CTLN2において意識障害、AST、ALT、γGTP、アルギニン、アンモニア、シトルリン値の上昇はよく見られる臨床所見であり、この臨床症状がある患者にシトリン欠損症の特徴的な食事の嗜好があるとCTLN2が強く疑われます [Saheki and Song 2017; 日本先天代謝異常学会2019; Häberle and Rubio 2022]。CTLN2は、尿中オロト酸がなく、アルギニン値が正常または軽度の高値であり、血漿グルタミン濃度が有意に高値でなければ、ASS欠損症と鑑別する事が出来ます[Häberle and Rubio 2022]。意識障害と高アンモニア血症で入院した患者においては、他の尿素サイクル障害との鑑別をするために、診断アルゴリズム(図3)が用いられます。

図3. 高アンモニア血症で入院したシトリン欠損症の可能性のある患者を鑑別診断するための診断アルゴリズム。†α-FPとガラクトースの上昇は乳幼児のみ。[Häberle and Rubio 2022]より引用。

略語: α-FP αフェトプロテイン, Ala アラニン, ASA アルギニノコハク酸, ASLアルギニノコハク酸リアーゼ, Arg アルギニン, ARG1 アルギナーゼ1, ASSアルギニノコハク酸合成酵素, CAVA 炭酸脱水酵素VA, CPS カルバモイルリン酸合成酵素, DLDジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼ、FAO脂肪酸酸化、Glnグルタミン、GSグルタミン合成酵素、HHH高オルニチン血症-高アンモニア血症-ホモシトルリン尿症、HI-HA高インスリン血症-高アンモニア血症、HMG 3ヒドロキシ-3-メチルグルタリールCoAリアーゼ、LPI リジン尿性蛋白不耐症、Met メチオニン、3-MGA 3-メチルグルタコン酸尿症、MMA メチルマロン酸尿症、NAGS N-アセチルグルタミン酸合成酵素、OAT オルニチンアミノトランスフェラーゼ、Orn オルニチン、OTC オルニチン トランスカルバミラーゼ、PA プロピオン酸血症、PC ピルビン酸カルボキシラーゼ、P5CS Δ1-ピロリン-5-カルボン酸合成酵素、Pro プロリン、SERAC1 セリン活性部位含有タンパク質1、THAN 新生児一過性高アンモニア血症、TMEM70膜貫通タンパク質70、Tyr チロシン、U 尿

引用文献はこちらよりご覧ください。

疾患の発生率
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