シトリン欠損症病態のモニタリング 

表現型に関わらずシトリン欠損症全ての患者に対してのモニタリング項目はアンモニア、シトルリン、その他のアミノ酸濃度の定期的な測定と肝機能検査が含まれます。1歳以上の患者については、身体測定(身長、体重、頭囲など)および血中脂質(総コレステロール、HDL/LDL-コレステロール等)の測定も必要です。以下のパラメータは数ヶ月に一度、測定することが推奨されます。

  • 血漿アンモニア濃度 ( 食後4時間以上経過してから検体採取)
  • シトルリン濃度を含む血漿アミノ酸(食後4時間以上経過後に採血
  • γGTPを含む肝機能検査

なお、シトルリンの増加はCTLN2の発症を示唆する可能性があるものであり、速やかに治療を行う必要があります [Tsuboi et al. 2001; Saheki and Song 2017]

シトリン欠損症の治療法の種類 

シトリン欠損症の治療法は表現型によって異なります。

シトリン欠損症の主な病態は、解糖系の障害及び脂肪酸βの酸化による肝細胞のエネルギー不足に起因すると考えられています。この問題に関してはMCTが特に有効であり、それはMCTが速やかに加水分解され、遊離中鎖脂肪酸として肝臓のミトコンドリアに取り込まれ、そこで酸化されて肝臓に直接ATPを供給するとともに脂肪生成を促進し、結果としてリンゴ酸-クエン酸シャトルを介して細胞質NAD+/NADH比を改善するからだと考えられています[Hayasaka 2021; Hayasaka 2023]

各表現型に推奨される治療法を以下に詳述します。

NICCD

NICCDの治療にMCTフォーミュラガラクトース血症合併のNICCD患者にはMCTを添加したガラクトース除去フォーミュラが用いられます [Tazawa et al. 2004; Ohura et al. 2007; Hayasaka et al. 2011; Hayasaka 2021]。脂溶性ビタミンが処方されることもあります 

ガラクトース血症合併の患者に関してはガラクトース除去フォーミュラを使用することによりガラクトース血症の症状が緩和され、胆汁うっ滞、黄疸、成長不良などのNICCDに関連する症状はMCTを使用することにより改善することが報告されています [Tazawa et al.2004、Ohura et al. 2007、Hayasaka et al. 2011、Hayasaka 2021] 

Post-NICCD

NICCD緩和後/一歳以降

NICCD緩和後または1歳以上のすべてのシトリン欠損症患者は、低炭水化物、高タンパク質、高脂肪の食事をとるべきとされます[Dimmockら2007; Saheki and Song 2017; Häberle and Rubio 2022; Kidoら2022]。予防の項で先に詳述した生化学的根拠に基づいて、臨床症状の緩和後もMCTの補給が推奨されます[Hayasaka 2021; Kido et al.2022; Hayasaka 2023]

FTTDCD

MCTを添加する食事療法は、FTTDCDに有効であることが示唆されています[Hayasaka 2021; Hayasaka 2023]

CTLN2

高アンモニア血症はCTLN2患者で高頻度に認められ、状態を悪化させる酒類や炭水化物の過度の摂取、またグリセロールの輸液は避けるべきです。アルギニンやピルビン酸ナトリウムの投与は高アンモニア血症を改善することが示されています[Imamura et al. 2003; Mutoh et al. 2008; Yazaki et al. 2013]。またMCTはCTLN2患者に有効であることが示されています[Hayasaka et al. 2014, 2018]。見かけ上健康期における適切な食事療法と疾患管理や適時に行うCTLN2への治療が効果的であり、見かけ上健康期で適切に疾患管理をしていればCTLN2発症を回避できる可能もあります。しかし治療で状態が改善しない場合、最終的な解決策として肝移植が必要となる場合もあり、肝移植を行うことでシトリン欠損に伴う代謝障害をすべて是正できることが示されています[Saheki and Song 2017; Okano et al.2019; Häberle and Rubio 2022]

臨床的な治療ガイドラインの出版物

岡野先生による「Current treatment for citrin deficiency during NICCD and adaptation/compensation stages: Strategy to prevent CTLN2」(和訳:「シトリン欠損症における新生児胆汁うっ滞(NICCD)期と見かけ上健康な適応代償期の最近の治療法:CTLN2の発症を予防するためには」Molecular Genetics and Metabolismで出版されています。閲覧はこちらをご覧ください。

引用文献はこちらよりご覧ください。

診断
予防と注意事項