ポール・イェン、MD 、ウィニフェッド・ヤオウ、キレーリ・ヲゥン
デュークNUS医科大学 心血管疾患・代謝性疾患科

「シトリン欠損症肝モデルにおけるアミノ酸、栄養、細胞シグナル伝達、およびメタボローム変化の評価」

シトリン欠損症はミトコンドリア内外のアスパラギン酸とグルタミン酸の交換反応を触媒する輸送体であるシトリンをコードする SLC25A13 という遺伝子の変異により起こる、常染色体劣性の代謝疾患です。この輸送体は、細胞質で行われるタンパク質合成、ヌクレオチド合成、尿素合成、およびリンゴ酸アスパラギン酸シャトルの一員としての好気性解糖、および乳酸からの糖新生などの代謝経路に関与しています。またシトリンは体内のアンモニア解毒の主な経路である尿素サイクルと尿素の生産のバランスを維持するために不可欠です。シトリン欠損症は主に新生児肝内胆汁うっ滞症(NICCD),成人発症II型シトルリン血症(CTLN2)、成長障害と脂質代謝異常を伴った疾患(FTTDCD)の3つの主な病態を持っています。現在のシトリン欠損症の対処法は患者の臨床症状に依ります。 NICCD は食事療法および栄養療法によりアンモニア値を下げることで管理することが出来ます。CTLN2 は重度の高アンモニア血症、予後不良、および高い死亡率を引き起こす可能性があります。

アルギニノコハク酸合成酵素(ASS1)タンパク質発現活性もまた、いくつかの CTLN2 の症例で減少しており、アンモニアの蓄積を悪化させます。FTTDCD を有する患者は、様々な食事療法(低炭水化物、特定のアミノ酸)により管理されていますが、詳しい研究はまだ成されていません。

鹿児島大学佐伯教授と共同研究者らは、シトリン欠損症の多彩な臨床症状を説明し、シトリン欠損症マウスモデル、シトリン/ミトコンドリアグリセロール-3-リン酸脱水素酵素(Ctrn / mGPD)ダブル KO マウスの作成に成功しました。 しかしながら、げっ歯類とヒトとの間の種特異的な相違や高アンモニア血症を誘発するためのSLC25A13およびミトコンドリアグリセロール-3-リン酸脱水素酵素(mGPD)遺伝子の両方における変異操作の必要性は、ヒトにおける CTLN2 モデルへの応用を限定的なものにしてしまいます。また、現在この病気の強固な生体外モデルはありません。 我々は CTLN2 の細胞培養モデルは、生体レベルとヒトの機能両方に翻訳可能な再現可能でかつ迅速な情報をデータを作り上げることが出来ると考えます。さらに、この細胞培養モデルは高処理スクリーニングとして使用し、SLC25A13 変異の存在下において高アンモニア血症を軽減する栄養状態および化合物を同定することが可能です。 近年我々は、HepG2 ヒト肝細胞株におけるそれらの発現をノックダウンするために、SLC25A13 と ASS1 siRNA siRNA をそれぞれ、また組み合わせての使用を試みました。そして SLC25A13 単独の状態と SLC25A13 および ASS1 の両方がノックダウンされた状態で高アンモニア血症が細胞内で増加したことを発見しました。 これらの細胞ではさらにミトコンドリアの質と活性化の低下が見受けられました。これらの研究は、SLC25A13 が完全にノックアウトされた様々な肝細胞株を開発し、新規の遺伝子編集法である CRISPR / Cas9 技術を用いて正常な SLC25A13 遺伝子を患者からの変異した遺伝子で置き換える理論的根拠を提供し、特定の変異を持つシトリン欠損症の肝細胞株を作り出すことが出来ます。我々はまた、特定の栄養状態がその媒体にもたらす影響、ならびにその栄養状態がノックアウトと変異保有細胞株にもたらす、アンモニア産生および細胞代謝への影響を研究する予定です。

研究目標:

  1. CRISPR / Cas9 技術を用いて HepG2 細胞に SLC25A13 ノックアウト細胞株を作成し、オートファジー、細胞シグナル伝達、アンモニア産生、およびミトコンドリア機能に対する特定のアミノ酸、さまざまな栄養状態、および薬物治療の影響を調査する。
  2. HepG2 細胞培養モデルで CRISPR / Cas9 技術を用いて CTLN2 患者から取り出した特定の変異の影響を調べ、ASS1 低下、細胞シグナル伝達、アンモニア産生への変化に対する特定のアミノ酸、さまざまな栄養条件、および薬物の影響を調査する。前項1の HepG2 細胞培養モデルを用いて、CTLN2 患者における肝臓のASS1 低下の配合効果を明らかにする。

(2019年2月 更新)