教授 ジョセフ A. バウワー
糖尿病・肥満・代謝研究所、生理学教室 ペンシルバニア大学ペレルマン医学部教授
シトリン欠損症のげっ歯類モデルにおけるNAD+利用の調整
はじめに:
- シトリン(アスパラギン酸-グルタミン酸輸送体2、AGC2)の欠損と還元ストレスの組み合わせは、細胞質アスパラギン酸(Asp)の産生を阻害し、またシトリンの欠損は、ミトコンドリアから細胞質へのAspの輸送を直接阻害する。通常シトリン欠損症患者は、オキサロ酢酸からアスパラギン酸を生成するアスパラギン酸トランスアミナーゼを介して欠損を補っている可能性が高いが、このメカニズムはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+/NADH)の酸化還元に敏感である。これはNADHが高いとオキサロ酢酸がリンゴ酸に変換されてしまい、Aspに変換することができなくなるからである。シトリンは、細胞質酸化還元を維持するリンゴ酸-アスパラギン酸シャトルに必要である。したがって、シトリン欠損の状況では、糖やアルコール等、細胞質NADHを生成する代謝物がNAD+/NADHの酸化還元バランスを崩し、Aspの供給を遮断して高アンモニア血症を引き起こすことが予想される。このことは、動物モデル[1, 2]や、シトリン欠損症の患者がこれらの食品を避ける傾向が顕著であることからも裏付けられている[3]。
ニコチンアミドリボシド(NR)は、経口摂取可能なNAD+の直接の前駆体で、NAD+合成における律速段階および最もエネルギーを消費する段階を回避することができる[4]。現在、栄養補助食品として販売されており、心不全、糖尿病、認知障害に対するマウスでの有望な結果に基づいて、ヒトでの臨床試験が行われている[5]。KL1333 は NAD(P)H キノンデヒドロゲナーゼ 1 (NQO1) の合成基質である [6, 7]。KL1333とクエン酸やピルビン酸エチルなどの代謝物は、NADHからNAD+を再生し、細胞質における還元ストレスを緩和することができるため、これらの介入は、シトリン欠損下でも代謝の恒常性を回復させる可能性を持っている。
研究提案の目標:
- 急性高アンモニア血症の予防と治療、代謝回復力を付与する持続的な長期治療のための標準的なテストの開発
- 上記のテストを用いNRサプリ、NAD(P)H、クエン酸、ピルビン酸エチルの検証
- 有望な治療法の最適化および/または追加候補治療法の試験
我々が選択した候補治療剤に関する情報に加え、この研究はヒトにおける治療薬の開発を導く一環として今回検証する治療やその他治療の検証を行い、改良するためのパイプラインも作成できることとなる。
引用文献はこちらよりご覧ください。

ペンシルバニア大学ペレルマン医学部生理学教室および糖尿病・肥満・代謝研究所の教授。代謝と食事がもたらす長寿への影響に関する解明において大きな貢献をもたらす。2006年、バウワー教授らは、低分子化合物であるレスベラトロールが肥満マウスのインスリン感受性を改善し、早期死亡を改善することを明らかにした。また教授が率いたチームはラパマイシンという、マウスでは延命効果があるが、ヒトでは副作用のためにその有用性が制限されている薬剤について、標的外作用のメカニズムを明らかにした。現在、ペンシルバニア大学の研究室では、低分子を用いて、マウスのカロリー制限による健康増進効果を理解し、それを模倣することに焦点をあてている。 特にニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)代謝の変化がどのように老化、肥満、疾病に寄与するかを研究している。バウワー研究室では、遺伝子モデル、同位体標識法、メタボロミクスを用いて、NAD+の合成ならびに全身の代謝への影響経路を調査している。この研究室はNAD+プールのコンパートメント化に強い関心を持ち、また近年ミトコンドリアNAD+トランスポーターSLC25A51を共同発見した数少ない研究室である。バウワー教授は、100以上の出版物、投稿文、多数のコメントやレビューを共著で発表している。